昭和4年(1929年)世界恐慌があって、それから世界は不況が続きます。
昭和7年(1932年)五一五事件で犬養毅首相が殺害される。
時代は昭和9年(1934年)の出来事です。
まだ第二次世界大戦がはじまる前のできごとです。
昭和9年1月 東京日比谷に地上6階、地下1階、収容人員2810名という【東京宝塚劇場】がオープン。
こけら落としは月組公演で、レビューは《花詩集》が演じられますが、途中電動舞台装置の故障などで30分公演が中断するハプニングも起こります。
翌日からは一般公開もされ、当時はまだ【宝塚少女歌劇】と呼ばれていたこの時の公演は大成功を収めます。
2月 有楽町に日比谷映画劇場が開場します。
50銭均一の洋画邦画を上映する劇場で人気となります。
3月 満州国で帝政が実施され、 愛新覺羅溥儀が皇帝に即位します。
戦争のきな臭い匂いはしていましたが、まだまだ平和な日本。
庶民は娯楽を楽しむ余裕はあります。
吉本興業によってマーカス・ショウが日本に招聘されます。
その当時のマーカス・ショウの演出振付主任レオン・ミラーとのインタビュー記事が新聞に掲載されています。
■ 朝日新聞縮刷版 昭和9年3月
マーカス・ショウ 演出のレオン・ミラーインタビュー
「笑いが足りない日本人」
日劇で大ヒットを飛ばしたマーカス・ショウの、「演出振付主任」レオン・ミラーにインタビューしています。
記者
「欧米では既にレビューは行き詰ったと言われているらしいですが事実ですか?」
レオン・ミラー
「そんなことはありません。それは皮相的な見方です。成程興行を休んでいる団体が大分おり、劇場のいりの悪くなったことは事実ですが、それはヒドイ不景気のためで、けっしてレビューが飽きられたためではありません。オペラなんかの方がモットひどい打撃を受けていますよ」
記者
「近頃は歌や踊りをふんだんに取いれたレビュー映画やトーキー・オペレッタが盛んに作られていますが、レビューがこれらに肉迫される事はありませんか」
レオン・ミラー
「大丈夫です。ラヂオでニュースを聞いても尚新聞を見なければ満足できないのと同じです。アメリカではむしろトーキーの方が行詰まって、一般に飽きられかかっています」
記者
「レビューとショウとはどう違いますか」
レオン・ミラー
「厳密にいえばショウは全体を通じて一貫した筋を持ったものであり、レビューとは一幕一幕が個々に独立したものをいいます。然し普通こんなウルサイ区別はつけませんね」
「レビューに必要な要素は? それからレビュー・ガールとしての必要条件は?」
レオン・ミラー
「レビューには歌、踊り、笑い。女優の生命はまず第一に健全な肉体です。それから歌も踊りも、殊にタップとトウ・ダンスができるという事も」
記者
「レビューからエロティシズムを取り去ったら、生命がなくなりはしませんか」
レオン・ミラー
「エロティシズムは絶対必要条件ではありません。あれは故意に作るものでなく自然に生れるものです」
記者
「全裸体に銀粉を塗る『銀の女神』がエロだからといって大分うるさくいわれたそうですね」
レオン・ミラー
「あれはエロではありませんよ。立派な芸術ですよ。裸体の彫刻と同じ事です。どこの国に乳覆いをした彫刻があるでのでしょう。シカゴの市長はこれをとても激賞したものですよ。先日宝塚のレビューを見ましたが、あれにはわざとらしいエロティシズムはないではありませんか。然もその素晴らしさに私は驚きましたよ。衣装、舞台装置、証明、いずれも全く素敵ですよ。然し笑いが少い様ですね。もっとギャグを入れたら良いと思います」
記者
「日本のレビュー・ガールは体が貧弱だと思いませんか」
レオン・ミラー
「いや、あの人たちは学校の生徒で修行中の者だというぢゃありませんか。ああやって踊っているうちに次第に立派なものになりますよ。
記者
「女が男装をして出て来るのを見てどう思いましたか?」
レオン・ミラー
「いや実はそれに感心したのです。女ばかりでレビューが出来るという事を日本へ来てはじめて知って感心しましたよ。男の様な声をだしてなかなかうまくやっていますね。あれは全く素晴らしい思いつきですよ。他の国にはありませんからね」
記者
「そんなに気に入ったのなら、あなたのレビュー団でも一つやってみたらどうです」
「一度か二度やってみるのはいいでしょう。だけどあんまり続けると飽きられるでしょうな。結局不自然ですから。それに外国の女の男装は珍しくて面白いけれど、自分の国の女が男の風をするのはあんまり有難くありませんから」
インタビュー記事はなかなか当時の状況がわかり面白い内容になっています。
マーカス・ショウは東京の日比谷の日劇で開催されていましたから、レオン・ミラーさんも宝塚歌劇団の舞台を観たようです。
彼のコメント
「宝塚のレビューを見ましたが、あれにはわざとらしいエロティシズムはないではありませんか。然もその素晴らしさに私は驚きましたよ。衣装、舞台装置、証明、いずれも全く素敵ですよ。然し笑いが少い様ですね。もっとギャグを入れたら良いと思います」
なるほど宝塚歌劇団にエロチシズムに笑いか?と笑ってしまいました。
いろんな見方があって面白いですね。
小林一三の「清く 正しく 美しく」は日本にだけ通じることなのかも知れませんね。